笹谷峠から雁戸山へ(北蔵王)
蔵王連峰北部の日帰り登山。ルート:笹谷峠-山形側コース-雁戸山(引き返し)-カケスガ峰-宮城側コース-笹谷峠
2011年6月4日
私には蔵王といえば、岩壁に囲まれた山寺、「おもひでぽろぽろ」アニメにも出ている御釜、蔵王山の樹氷など、頭に浮かび上がる。とにかく、山形県と宮城県の境である蔵王連峰には名所がたくさんあるというイメージがする。昔に観光で中央蔵王の刈田岳に行ったことがある私は、蔵王連峰の他の山にもいつか登りたいなとずっと思っていた。8年経ってから、やっとその機会が訪れた。
ある晴れた日、友人と一緒に車で山形の方から仙台へ向かっていた。最近は雨や曇りの日々が続いていたけれども、久しぶりに天気に恵まれ、今日の登山を特に楽しみにしていた。
細い山道は大きく蛇行しながら高度を稼ぎ、笹や潅木に切り抜かれた通路のような真っ直ぐな登山道と競争する。やがて木が低くなり、笹原に変わると、間もなく笹谷峠だ。峠の頂点(標高906m)まで行かず、その少し手前の駐車場(左側)に入る。早朝にも関わらず、大きな駐車場はもう半分満ちていた。やはりここら辺は、アプローチが簡単で、人気がある山のようだ。
この駐車場は山形方面への素晴らしい展望台でもある。遠くには、朝の霞で半分隠れている山形市街地がかすかに見えていた。しかし意外と寒い!下で感じた暑さはここで消え、山の涼しさが私たちを迎えた。
北の方には登山道の線がはっきり付いた神室の急斜面がそびえ立っている。私たちはその反対側(南)に見える緩やかな森林斜面を持つ前山の方へ向かう。今日の目的である雁戸山は前山の向こうに位置するので、まだ見えない。
笹谷峠には、散歩道、登山道、作業道など、迷路のように絡まっている。でも、展望を隠す木もないし、標識に従えば、迷う心配はない。峠から前山への主なルートが2本あり、ここで私たちは、行きは山形側、帰りは宮城側のコースを歩くことにした。
駐車場から出て、すぐに峠道を渡り、狭い作業道に入る。頭の真上に高い送電線が走り、他の電気関係の施設があっちこっちに見られる。このまま200m弱歩くと、大きな標識が付いたところで右へ登山道に入る。この登山口のすぐそばには、高い笹藪に囲まれた笹谷小屋がある。とても小さいけれども、中を覗いみたら、泊まってみたいぐらい綺麗だった。
間もなくもう一本の送電線をくぐり、いくつかの作業道や電気施設を通る。ここまでの道はほぼ平らだったけれど、どんどん傾斜が上がり、次第に森の中に入り込む。ここからカケスガ峰への分岐までは、展望を得られない400mの登りとなる。
太陽が昇ってきたせいか、早歩きのせいか、けっこう暑くなってきた。私たちは汗をかきながら明るい森の中を登っていく。半分登ったところで、右手から関沢コースが合流する。もう少し登ったら、木に付いた水場標識が見える。ここで登山道から右へ10mぐらい離れると、水が少し流れている小さな沢がある。しかし、夏シーズンの後半や雨の少ない時期には枯れそうなので、期待できない。
カケスガ峰への分岐に着いたのは、笹谷峠から出発してちょうど1時間経った。ペースが速かったので、予定時間より早く着いた。ここは前山とカケスガ峰の間の緩やかな鞍部だ。立派な矢印標識もあり、石小屋が建てられているカケスガ峰の山頂がすぐ近くに見える。そこを通る宮城側コースを帰りに歩く予定なので、今は寄り道せず雁戸山へ進む。
山の雰囲気が変わり、樹高の低いダケカンバの斜面をトラバースしながら、前山の山頂を右に残す。途中、斜面が急になっているところで、やっと景色を得られる。進む方向には雁戸山が見えてきて、宮城方面には遠くまで広がる波のような山々も綺麗だ。このトラバース道はほとんど平らだが、小さい起伏が続き、ペースが落ちる。
最後に残雪を渡り、前山の南側の鞍部に出る。私たちはここで一休みしていた時に意外なハプニングが起こった。突然、山形側の下の急斜面に付いた笹薮の方から、がさがさと大きな動物が近づいてくる音がした。しばらくしたら、なんと、大きな声でしゃべっていた私たちを全く気づいていない熊だった!登山道に出没するところだったが、やっと人間の気配に気づいて急いで逃げた。びっくりした!この後で下から追ってきた二人の登山者の言葉によると、おそらく同じ熊が今朝に登山口付近に出た。それを目撃したグループは登山をやめて引きかえったという。
さあ、熊はもう逃げたようだし、もう近い雁戸山に登り続けよう。けど、その前は、右下から合流する滑川コースに少し歩いてみることにした。予想通りに、50メートルぐらい進むと、素晴らしい展望が待っている!雁戸山の山頂とその手前の稜線の切り立った姿が印象的だ。鋭い稜線を走る登山道もとても急に見えるので、これからの登りに対しては楽しみと緊張感が同時に生じている。雁戸山から西方に続く険しい尾根も、広い雪原が付いた遠い中央蔵王を背景にした美しい風景を作った。
さて、景色で満足したら、鞍部まで戻ろう。ここからは急に岩をよじ登る道が見た目より難しくなく、足場もしっかりしている。10分ぐらい登ったら、最後にハイマツとヒバに囲まれた岩場を通り抜くと、蟻の戸渡りと呼ばれる細い稜線に出る。振り向いたら、トラバースした前山の全景、遠くには神室を眺める。さっき休憩した鞍部はほぼ真下に見える。
雁戸山の山頂まであと10分しかかからない。途中でロープが付いた岩場があるが、難所ではない。岩が濡れていなければ、ロープを使わなくてもいいぐらい、簡単だ。
雁戸山の山頂は広くて低い木や笹に囲まれている。もちろん、展望も抜群だ。霞が付いた山形市街地の方から来る、滑川の谷を渡ったり、山をトンネルで通過したりする高速道路の滑らかなカーブが遠くに見える。私たちは今日そこから来たんだ。隣の谷には、馬見ヶ崎川(まみがさきがわ)をせき止めた蔵王ダムがあり、大きな湖になっている。雁戸山から見ると、真西だ。その向こうには森に覆われた瀧山(西)と五郎岳(南西)が立ち上がり、あの有名な蔵王温泉とスキー場はあそこだ。
山頂からさらに20メートルぐらい南に歩けば、笹雁新道が合流する分岐となり、南方面にはもっといい眺めが広がる。個人的な好みだが、山頂よりここの方が好きだ。一番目立つのは、垂直な岸壁を北東に向けた南雁戸山の険しい姿だ。岸壁の下には大きな雪渓が日射を反射してまぶしい。南雁戸山までは、一回大きく下って、また急に登ることになるけれど、20分で着きそう。ただ、今日はここを終点とし、南雁戸山までは行かない。
ところで、蔵王ダムの上流の方を見つめてみると、断崖絶壁の沢が見える。その西側の壁がほぼ垂直で、その高さはなんと100メートルぐらいあるに違いない!そこにはルートとかあったら、面白そうだなと思ったけれども、地図で調べたら、沢にはなにもない。もっと上流の方なら、水平にトラバースするコースがあるだけだ。
こんなすばらしいところでいつまでもいたいけれども、そろそろ帰らないと。
同じ道で40分をかけて前山の北側の鞍部まで戻った。分岐から宮城側コースに入り、まもなくカケスガ峰に出る。広くて緩やかな山頂には、意味不明の石小屋(おそらく、電力施設の跡)と「東北電力マイクロ波無線用反射板跡」という鉄プレートが付いた石がある。山頂はあんまりにも広すぎて、景色を眺めるためにはそれぞれの方向に多少移動しなければならない。その北端に近づいてみたら、笹屋峠の笹原と神室の尾根の眺めに恵まれる。
ところで、先日、地図を見ながらルートを考えていたとき、この辺りの仙人大滝という面白そうなところに気になった。山形神室と神室岳の間に見えるはずだけど・・・。あった!森の中の谷が大きなステップを作り、それを飛び降りる細い川の線がかろうじて見られた。やはり面白そうで今度是非行ってみたい。
カケスガ峰からの下山道はすぐ森の中に入り込む。意外なことで、倒れた木や落ちた枝が多く、ひどい状態だ。まるで荒れた道みたい。今年の豪雪のせいじゃないかと思った。このままでゆっくりと進み、高度を半分以上落としたら、やっときれいな道に変わる。
地形が緩やかになったところで、登山道は急に左に曲がり、二つの小さな沢を渡る。私たちがいたとき(6月上旬)には、最後の沢だけ水が少し流れていたが、やはり雨の少ない季節には枯れるでしょう。
水の沢を渡ってすぐ笹谷峠付近の笹原に出る。ここは歩道が多く、少し分かりづらいところだが、大きく下る坂元沢コースに入らなければ、どの道も笹谷峠まで導いてくれる。笹原に出たら、すぐ左右道にぶつかる(ここで、笹が刈られた小さな丘の上に大きく傾いている「観世音」の碑が立つ)。左は笹谷峠への近道で、「無線中断所」という矢印標識が付いている。私たちは、地図に載っている「有耶無耶」を見てみたかったので、ここで右へ曲がる。数10メートル歩くと、また分岐となり、ここで左に曲がる(真っ直ぐは坂元沢コースになるので、注意!)。「有耶無耶関跡」というところはそのすぐだ。古い木の柱のそばに詳しい説明が書いてある板が立っている。笹谷峠は大昔に重要な関だったらしい。
笹谷峠の駐車場まではあと20分もかからない。途中で山菜採りをする人が何人もいて、山菜取りでも人気だなと思った。しかし、こんな暑さの中で大変そうで、山菜もあんまりなさそうだし・・・。
峠道に出たら、道端にたくさんの車が停まっていることを見て驚いた。駐車場も満車だ。
帰る前に周りの景色を最後に見回す。まだ行ったことのない神室に目線が止まり、そのずっと向こうから蔵王山よりさらに南に続く長い縦走を想像した。テントを持って、いつか全部歩いてみたいという新しい夢が生まれた。